夕暮れが、異聞帯の空を朱に染めていた。
FANZA
仄暗いアトリエの中で、絵具と和紙の匂いが静かに満ちていく。
「なあ、マスター。じっとしてて。……今日は、アンタの線を描きたいんだ」
葛飾北斎――名は父から受け継ぎ、魂は異星の絵筆と契約した娘。
その声はいつもより低く、熱を帯びていた。
「浮世絵ってのはさ、見えないとこまで描くもんなんだよ。……たとえ、それが肌の奥でも」
筆が紙を滑るたび、彼女の頬が仄かに紅く染まっていく。
その瞳には、キャンバスではなく、あなたの輪郭が映っていた。
「アンタと一緒にいると、線がゆらぐんだよ。まっすぐ描けねぇ。……どうしてだろうな」
襟元を緩めた彼女は、指先に墨を含ませ、自分の胸元に描き始めた。
小さな、けれど妖しく艶やかな印。
まるで、感情の熱を形にするように。
「なぁ……ちょっと、来てくれねぇか」
近づくあなたの手を、北斎は自分の手に重ねる。
「筆も手も、あたしだけじゃ足りねぇ。アンタの‘線’が欲しい。重なって、溶けて、混ざりたい」
あなたの息遣いが、彼女の耳元に触れる。
その瞬間、北斎はわずかに震え、細く息を漏らした。
「……ふぅ、ん……そのまま、描いてくれ。あたしの、奥の奥まで」
墨が滲む。紙が歪む。
でも、それすらも彼女にとっては’美’だった。
――描かれること。
――触れられること。
――知られてしまうこと。
それらすべてを、北斎は今、絵として、そして想いとして受け入れたのだった。
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